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『Apricot forest』self liner notes

  • kusakageromusic
  • 2024年12月8日
  • 読了時間: 5分



まず、作者自身がライナーノーツを書くことに関して否定的な見方をする方もいるかと思います。

作者の手を離れた瞬間、作品はリスナーのものになるのだから、リスナーそれぞれが自由に考察する余地を残しておくべきだと。そういった考え方も当然理解できます。


しかし、作品があまりに自由に宙を飛び回りすぎると原型を保てなくなることも多く、姿形が見えなくなった末に、結局は健全な消費がなされていないことも多いように感じます。

作品の説明が足りないがゆえに、深いところまで消費することを放棄されてしまう作品が多い気がするんですよね。


「健全な消費がなされるためにも、ある程度の土台は作者本人が提供すべきかな」というのが、私の今の考えです。

数ヶ月後、数年後には「ライナーノーツなんて書くべきじゃない」なんて叫んでいる可能性もありますが、今現在の考えを優先して、ここに土台を置いていこうと思います。


当然、100%全てを解説するわけではなく、ある程度の余地は残しておくつもりです。



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アルバム『Apricot forest』の核となる曲は、

1曲目の『アンズの森』と8曲目の『花は泳ぐ』だと思います。

輪廻転生のその瞬間、形のないことに対する不安とその先に見える希望、というのがアルバム全体を通した大まかなテーマです。


「森」というのは生まれ変わるその狭間、その瞬間に訪れる駅みたいなもの。そしてそこに漂い流れる感情そのもの、でしょうか。

もちろん言葉通りに「生まれ変わり」「輪廻転生」と捉えていただいても良いですし、現実世界の中で変わりゆくことの象徴としてそれらを捉えていただいても問題ありません。


1曲目の『アンズの森』では、その「森」に迷い込み、たたずむ様子を、

8曲目の『花は泳ぐ』では、その「森」を旅立ち、光のさす出口へ導かれる様子を描いています。

なぜ「アンズ」というモチーフを設定したのか、という話に関してはここで言及するのはやめておきます。


その他の楽曲も、

「森」そのもの、もしくはこの「森」に来る前に見ていた世界、その世界の中にいた自分自身、

これらの変化に対する感情(抵抗、受容、希望)などを描いています。



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詞の中には様々なモチーフや他ジャンルの作品などがもり込まれています。


3曲目の『水鏡』の歌詞は、一人旅をした際に、帰りの新幹線の中で一気に書き上げました。

その頃、マネという画家の『フォリーベルジェールのバー』という絵に関する番組を見ていたことが歌詞に大きく影響しました。

この絵は一度日本に来日したこともあり、私も美術館に足を運び、この眼で実際に鑑賞しました。

絵の中の女性の瞳に、複雑で重たい陰のようなものを感じたことを強く記憶しています。

こちらを見つめる女性と、鏡の中の女性はどちらが本当の私なのか、どちらが理想でどちらが現実なのか、そのようなイメージが静かに、頭の片隅に眠っていたのだと思います。


歌詞を書き上げることになったその一人旅では、山の奥深くにある湖畔のホテルに宿泊しました。ホテルの部屋の窓を開けると、木々の向こうに藍色の湖が見えました。

夜になり、月明かりに照らされて、より一層濃くなった湖を見ているとなんだか不安な気分になり、心がザワザワして眠れなくなってしまいました。

寝ることを諦めて、窓の外の湖をボーッと眺めていたその時、

頭の中で、

マネの絵と湖の風景、そしてその時偶然読んでいた川端康成の『みずうみ』のイメージが頭の中でビコーンと繋がった気がしました。

私は暗い部屋でノートを開いて、歌詞の原型を書き始めました。



様々なモチーフを組み合わせて、それを一旦バラバラにして、そこから一つのイメージを作るのがどうやら今現在の私のやり方みたいです。

4曲目の『日暮れが綺麗な理由』は2023年に公開された役所広司主演の映画がモチーフの一つになっています。



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5曲目の『春の色を探して』を見てもわかるように、このアルバムの季節感は晩冬から春先といった感じでしょうか。

主人公は、行き先をわかっていながらも、それに気がついていないふりをして春風に逆らっています。

『春の色を探して』の間奏部分が、このアルバムで最も時間をかけたところかもしれません。トランペットを使うという結論に辿り着くまで、本当に長い道のりがありました。


新しい世界へ旅立つ瞬間、その先の未来を徐々に受容し希望を見出す、という時系列を最初から意識して、曲順とテーマを決めてから作曲していきました。

2曲目の『ハイハイ』で描かれる憎悪は、6曲目の『人形は、幕間に踊る』の頃には和らいで、主人公は幕間が終わることを祈っています。

7曲目の『蛹火』では幕(膜)を開こうとする世界に身を託しています。



アルバムを作る際、このようなテーマに行き着いたのも、2024年に私が個人的に体験した出来事が大きく関係していると思います。

具体的な内容は伏せますが、それは誰しもが、いつかは必ず経験していくことかもしれません。



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ここまで読んでいただきありがとうございました。

1枚目となったこのアルバムは反省ばかりです。

例えば歌唱に関して。「森の中で、空から誰かが囁いている感じ」をイメージして、とにかく声を張らず、抑えることを意識して歌いました。

しかしその意識が強過ぎたあまり、結果として満足いかない内容になってしまいました。


昨今、「曲をヒットさせるにはとにかくイントロを短くしろ」というフレーズが叫ばれていますが、

ヒットの法則からは程遠い、ご覧のような結果になってしまいました。

しかし、イントロから世界観を構築していく曲やアーティストが個人的には好みなので、後悔はしていません。


手探りで作った作品ですので、未熟な部分も多いですが、多くの反省を次回作に活かしたいと思います。

今この瞬間も2枚目のアルバムの制作が進行中です。

より良い作品を生み出せるよう、努力します。



草陽炎








 
 
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